企業オーナーの事業承継対策について専門の税理士が徹底解説

中小企業や上場企業オーナーが抱える問題の中でも事業承継や相続は関心の大きなところでしょう。実際に、「将来、相続税はいくらかかるのだろう?」「相続が起きてしまったら残された家族が揉めないだろうか?」といった心配事は尽きないはずです。

特に業績の好調な企業や社歴が長い中小企業は、相続税の対象となる自社株式の相続税評価額が多額になり、将来の相続時に多額の納税負担に苦しむことも珍しくありません。

この記事では事業承継の取り扱い経験が豊富になる相続税専門の税理士事務所の税理士が企業オーナーの事業承継対策について徹底解説していますので是非参考にしてください。

1.事業承継を取り巻く問題点

中小企業オーナーの事業承継対策は重要性が高い事項にも関わらず対応が遅れています。これにはいくつかの理由があります。

後継者不在による社長の高齢化と相談先の不足

中小企業オーナーを悩ませる大きな問題の一つに「後継者不在」が挙げられます。

中小企業の社長の平均年齢は70歳近くまで進んでおり、これは後継者が中々見つからないことが挙げられます。

企業オーナーの事業承継対策について専門の税理士が徹底解説
画像引用元:中小企業庁「2017年版中小企業白書 概要

次に「顧問税理士が事業承継の分野に詳しくない」ということが挙げられます。

日本の税理士事務所の多くは法人の決算のサポート、所得税の確定申告業務を行う事務所が多く、事業承継や相続税の分野を得意にする会計事務所はごく僅かです。

税理士も医者と同じように専門分野が分かれていますので、企業オーナーも悩みに応じて複数の税理士に相談することやセカンドオピニオンをとることが重要です。

しかしながら事業承継や相続税の分野は税理士業界の中でも専門にしている事務所が少なく、中小企業が抱える事業承継の課題に専門家が対応しきれていないという状況があります。

2.事業承継について取り組むべき3つの問題と優先順位

事業承継について取り組む際によく「相続税や贈与税の節税」が挙げられますが、それ以上に重要な課題もあります。この章では具体的な事業承継対策を見ていく前に、取り組むべき3つの課題と優先順位について解説していきます。

<事業承継で取り組むべき3つの問題>
1.争族対策
2.納税資金
3.節税対策

この3つの課題を並行して解決していくことが大切です。そして優先順位として第一に挙げられることが「節税対策」ではなく「争族対策」なのです。

いくら節税対策が上手くいっても、結果的に残された相続人が争いを起こしてしまっては残念ながら事業承継は失敗に終わったといっても過言ではないでしょう。

しかし中小企業の事業承継は自社株式というすぐには換金できない資産に価値がつくことから、「後継者」と「非後継者」との間で争いが起きることが多いのです。

このため、この記事では節税対策だけではなく、争族対策についても解説をしていきます。

3.事業承継の争族対策の具体的な方法

3-1.遺言の作成

争族対策の筆頭に挙げられるのが「遺言」の作成です。遺言と聞くと当たり前のように聞こえますが、中小企業オーナーの方でも遺言をまだ作っていないという人は多くいます。

しかし中小企業の事業承継対策において、遺言の作成は必須です。

なぜなら相続対象となる自社株式は換金が難しく、また相続人平等に相続すればいいという性質のものでもないためです。

よく「会社は誰のものか?」という命題があり、これに対する回答は「株主」ということになります。株式会社は株主が議決権を行使することで、取締役の選任・解任、重要な経営の意思決定が可能となるためです。

さらに具体的にいうと、「後継者へ議決権の2/3以上を渡すこと」が重要となります。

株式会社において議決権の2/3以上を保有していれば、様々な重要事項の意思決定が可能となるためです。

この議決権の2/3以上を後継者へ渡すタイミングとしては、現オーナーの退職時や相続時等、会社のおかれる状況によって変わってくると思いますが、ゴールは2/3以上の議決権をしっかりバトンタッチしてあげることと考えるとよいでしょう。

このような前提があるためどうしても後継者と非後継者との間で差がついてしまい、非後継者が不満に思うケースも出てきます。そんな時に遺言で後継者への自社株式集約が上手く表現できていないと、後継者が2/3以上の株式を確保できず経営の舵取りが困難になってしまいます。

そこで遺言を作成することで自社株式について後継者へ確実にバトンタッチすることが可能となります。

遺言作成についての詳細についてはこちらの記事をご参照ください。

3-2.自社株式にかかる遺留分に要注意

遺言を作成する際に注意しなければならない重要事項に、「遺留分」があります。遺留分とは遺言によっても侵害することができない相続人の相続分です。言い換えると最低限保証される相続割合です。例を見てみましょう。

・オーナー死亡時財産
自社株式:10億円
預貯金:1億円
自宅:1億円
合計12億円

相続人:長男(後継者)、次男(非後継者)

遺言がなかった場合

12億円×1/2=6億円がそれぞれの相続分となります。自社株式以外の財産が2億円しかないため、非後継者である次男にも4億円の自社株式がいってしまいます。

遺言があった場合

自社株式10億円を全て長男が相続し、次男が他の財産の2億円を相続します。この時、次男の遺留分は1/4ありますので、遺留分が12億円×1/4=3億円あります。遺言がなかった場合と比較すると次男には1億円の遺留分が不足していますので、長男は1億円分の自社株式を渡すか代償金として金銭を交付することとなります。

この2つの事例から分かることは次の2点です。

  1. 遺言があることで後継者により多くの自社株式を残すことが可能になる
  2. 非後継者の相続分が遺留分を満たしていない時には、後継者に金銭的デメリットが生じる

このため中小企業の事業承継において遺言作成は大変重要となります。しかし一方で遺留分の問題に気を付けなければなりません。次の章では中小企業の事業承継における遺留分問題について民法が定めた特例を確認していきたいと思います。

3-3.遺留分問題を解決する「除外合意」と「固定合意」

相続人が複数いる場合、後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた結果、自社株式が分散してしまったり、後継者に多額の金銭的負担が生じてしまったりするリスクがあり、事業承継にとっては大きなマイナスとなる場合があります。

このような遺留分の問題に対処するため、経営承継円滑化法で、「遺留分に関する民法の特例」(以下「民法特例」といいます)が設けられています。それでは2つの特例をみていきましょう。

①除外合意

除外合意とは、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式については遺留分の対象から除外する制度です。遺留分負担の大きな要因となる自社株式が遺留分対象から除外されることで後継者の遺留分負担が大きく軽減されます。

企業オーナーの事業承継対策について専門の税理士が徹底解説

②固定合意

固定合意とは、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について生前に遺留分の対象となる額を決定して固定する制度です。これにより後継者が将来の自社株式に対する遺留分を確定させることができますので、余計な心配をせずに経営に専念することが可能となります。

企業オーナーの事業承継対策について専門の税理士が徹底解説

画像引用元:中小企業庁「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例

このように2つの民法特例は後継者の相続時の遺留分負担を守る制度ですので、上手く活用することで円滑な事業承継が可能となります。

他にも遺留分の生前放棄という方法がありますが、非後継者が完全な遺留分放棄に応じるケースは珍しいため実務上は利用がしづらい制度となっています。

そこで遺留分対策の中小企業版としてこの民法特例が設けられました。

4.事業承継の節税対策の具体的な方法

ここまでは事業承継全体の概要と、争族問題の対処方法について解説をしてきました。ここからは中小企業の事業承継の節税対策について専門の税理士が解説を行います。事業承継の節税対策は専門家である税理士でも難しい分野ですが、まずは節税対策のラインナップを知り、自社に適合した対策を選択していくことが大切です。

まず前提として中小企業の事業承継とは、「自社株式の2/3以上を後継者へ譲る」ことが原則のゴールとなります。2/3以上の自社株式を保有することで会社法上は重要な意思決定のほとんどを行うことが可能となるためです。

4-1.シンプルな生前贈与の活用が鍵

すでに後継者が決まっている場合には、現オーナーの相続時に自社株式を渡す人よりも、後継者が経営に関与しているときに自社株式を渡すという選択をとる人が多いと思います。

そして自社株式を渡す際に問題となってくるのか、自社株式の相続税評価額です。

<自社株式評価の引き下げの目的>
事業承継対策では、株式を移転する際に必ず税金や買取資金等の問題が生じる

自社株式の相続税評価が高いままだと、後継者への生前贈与や組織再編時、実際の相続発生時に、高い税負担がのしかかる

事業承継対策においては、「一時的に」自社株式の評価引下げ対策を行い、株価が下がっている段階で対策を実行することが大切。

このようなことから、多くの事業承継対策は「自社株式の評価引き下げ対策を行った後に、後継者へ生前贈与や譲渡をするスキーム」をとります。

そしてその中でもポピュラーな方法が「生前贈与」です。生前贈与を利用した方法は大きく3種類あります。

①暦年贈与を利用して毎年コツコツ贈与

自社株式の評価額がさほど高くない方にお勧めの方法です。

贈与税は年間110万円以内であれば非課税で贈与することが可能ですので、自社株式の評価がさほど高くなければ毎年コツコツと110万円以内の範囲で贈与を行うことで無税で株式を後継者へ移転させることが可能です。

また年間110万円を超えて贈与をすることも可能です。その場合には贈与税がかかりますが、特に直系尊属間での贈与については税率が優遇されています。

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このように年間500万円を贈与しても実効税率は9.8%程ですので、相続税との比較で有利であれば贈与税を支払ってでも生前贈与を進める企業も多くあります。

②相続時精算課税制度を利用して一気に事業承継を済ませる

次に自社株式の評価が高い企業で用いられるのが、相続時精算課税制度を利用した生前贈与です。

「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の祖父母や父母から20歳以上の子や孫へ贈与をする場合に2,500万円までの贈与であれば贈与税が非課税になる制度のことです。また2,500万円を超える金額を贈与した場合でも、2,500万円を超えた分に対して一律20%の贈与税ですみます。

しかしながら「相続時精算課税」という名称のとおり、相続が発生した場合には本制度を利用して贈与した金額を全て故人の相続財産に加算して相続税を計算するため、原則として相続税の節税対策にはなりません。

参考記事:まとまったお金をタダで贈与!相続時精算課税制度の完全ガイド

相続発生時に贈与した際の価額を持ち戻すのですから、節税にならないのに、なぜ利用するのか?という声があります。

この相続時精算課税制度を事業承継で利用するポイントは2つあります。

その1:2,500万円を超えた部分は一律20%の贈与税で済む
自社株式の評価が高い場合、引き下げ対策を行ったあとでも、一度に生前贈与を行ってしまうと高い贈与税(最高55%)がかかってしまいます。しかし相続時精算課税制度であれば、2,500万円を超えた部分は20%で済むためです。さらに将来の相続税から支払った贈与税相当額を控除することが可能となるのです。

その2:贈与後の自社株式の価値上昇を考慮しなくてもいい
相続時精算課税制度の特徴として、相続時に持ち戻す額は「贈与時点」の価額となっています。つまり事業承継対策によって引き下げた自社株式の評価で生前贈与を行っておけば、贈与後に会社の経営状態が良くなり株価が上昇した場合でも、上昇分が相続時に反映されないため相続税の支払いを抑えることが可能となります。

このような2つの特徴があることから、自社株式の評価引き下げ対策が行われた後で相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行うということがあります。

③事業承継税制を利用した生前贈与

最後に事業承継税制を利用した生前贈与があります。事業承継税制の制度は、後継者が相続や贈与によって自社株式を受けた場合、一定要件を満たせばその株式に係る相続税や贈与税が納税猶予される制度です。どちらも発行済議決権株式総数の3分の2までの税額が納税猶予されますので、大きく税額負担を軽減させることが可能です。

この事業承継税制は創設当時、適用要件が厳しすぎたため、利用する企業の数は非常に少なかったのですが、改正を重ねて現在は利用しやすい制度となりました。

ただし一度適用を受けると、納税が免除されるわけではなく猶予されるものですので、適用後に要件を満たさなくなった場合には、利子も含めて納税が必要となりますので注意が必要です。

4-2.株価引き下げ対策

前章の解説にありましたように、生前贈与や相続の際に自社株式の評価が高い状態ですと税負担が重くなってしまいますので、一時的に自社株式の評価を引き下げる対策を行う必要があります。

自社株式の評価は、①利益 ②純資産 ③配当の3つの要素で主に決まります。つまりこの3つの要素が高い状態だと、自社株式の評価が高くなるのです。

このためこれらの要素を引き下げて調整することが必要となります。
自社株式の評価引き下げのためには、大きく2つの方法があります。

①利益を減らす=損を出す

まず利益を減らすためには、事業に必要な売上を減額させることは通常難しいため、臨時の損失を出すということが考えられます。これは法人税の節税対策と近いところもあります。

メニューとしては下記のようなものがあります。

  • 損金性の高い生命保険を活用する
  • 役員の生前退職金を支給する
  • オペレーティング・リース(航空機、船舶等)を利用する
  • 含み損のある不動産を売却して損失を顕在化させる

その他にもありますが、代表的なものは「退職金」でしょう。事業承継のバトンタッチの際に企業オーナーが会社を退職し、退職金を支給します。この退職金は会社の費用にすることができますので、退職金を支給することで会社の利益が大幅に減り、結果としては自社株式の評価引き下げにつながるのです。

しかし役員退職金は無制限に支給できるわけではなく、税務上損金にできる限度額が下記のように決められています。

税務上の役員退職金限度額の計算式
最終役員報酬月額 × 役員在任期間 × 功績倍率

通常、社長であれば、功績倍率は3倍程度までは問題なく認められますので、最終役員報酬月額が200万円程度あれば、次のようになります。

200万円×30年×3倍=1億8,000万円

また株の譲り渡し時期としても社長が退任して後継者へバトンタッチできるいいタイミングですので、事業承継のスキームとしてよく利用されるのも納得です。

②会社の「純資産」を減らす

次に会社の純資産を減らす対策です。純資産は長年積み重ねてきた会社の利益ですので、単年度の利益を減額させるよりも難しいものです。

そこでよく登場するのが不動産です。

会社で不動産を購入することでなぜ純資産が減額するのか分からない人も多いと思いますが、自社株式の評価を行う際に会社が所有する資産は相続税評価額で計算できるのです。不動産の相続税評価額は路線価や固定資産税評価額を利用できるため、時価よりも低くなります。

例えば5億円で賃貸マンション一棟購入すると、相続税評価額は約半分となります。そうすると時価と相続税評価額の差額である2億5,000万円ほど、純資産が減るのです。

ただし会社でこの不動産の節税をするためには注意点があります。個人でしたら不動産購入後すぐに相続が発生しても相続税評価を使うことができますが、法人で購入した場合には購入してから3年間は時価で評価しなければならず相続税評価額が利用できないのです。

このためこの対策を行うのであれば、早めの準備と着手が大切になります。

③配当額を調整する

自社株式の評価の3つ目の構成要素である「配当」については比較的簡単に調整が可能となります。これは同業他社よりも多く配当を出していれば、単純に配当額を減額すればいいのです。

ただし3期連続で配当額をゼロとしてしまうと、今度は別の部分で問題が生じますので注意が必要です。配当が3期連続でゼロとなると、比準要素1の会社に認定されることになり、そもそもの評価方法選択時に有利であるといわれている類似業種比準価額方式が使える割合が減ってしまうためです。

このため配当は出すけれど、金額を多くし過ぎないという調整を行うことで自社株式の評価の引き下げにつながります。

4-3.組織再編等を活用した事業承継対策

最後に組織再編等を活用した事業承継対策を紹介します。組織再編というのは、会社の合併、分割等、組織形態を変更する対策です。自社株式の評価方法は専門的ですが、会社の組織形態を変更し、規模や株の持ち方を変えるだけで評価額が下がることがあります。

財産評価基本通達という自社株式の評価のマニュアルに書かれていることを上手く活かして、意図的に株価が下がるような構造を作り出すことが特徴です。ただし租税回避のみを目的とした外観を呈していれば後で税務署から指摘を受けるリスクもありますので、事業承継に強い税理士の助言が不可欠です。

組織再編を活用した事業承継対策は様々ですが、ここではよく出てくる3種類の事業承継対策を解説します。

①持株会社の活用による株価対策

持株会社を活用したスキームは事業承継対策の中でもよく選択される手法です。

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持株会社化するにあたっては、純粋持株会社にする場合と、純粋持株会社から脱して類似業種比準価額を加味できる場合とがあります。

この持株会社スキームのポイントは、「法人税相当額の控除」の恩恵と「純粋持株会社の株特外しによる類似業種比準価額方式の適用」による恩恵のメリットが挙げられます。

一方でオーナー株式買い取りのために金融機関からの借入が生じますので利息負担や移転コストを考慮する必要が生じます。

それなりに大がかりな対策となりますので、ある程度の規模感のある事業承継対策で用いることで効果を発揮するでしょう。そうでなければ株価引き下げ後のシンプルな生前贈与で済ませることも視野に入れて検討するとよいでしょう。

②合併による株価引下げ

会社を合併することで自社株式の評価を下げることができるケースがあります。
これは中小企業の自社株式の相続税評価を求める際の規模に関係しています。

自社株式の相続税評価を求める際には、「純資産価額方式」と「類似業種比準価額方式」の2種類の評価方法を組み合わせて評価を行いますが、通常は類似業種比準価額方式による評価額の方が低くなる傾向にあります。

しかし会社規模が一定以下の場合には類似業種比準価額方式を組み入れることができる割合が少なくなり、純資産が高い会社は自社株式の評価が高くなってしまいます。

そこで複数の会社を保有している場合で、会社を合併することにより類似業種比準価額方式の割合を増やすことができる場合には、合併を行うことで自社株式の相続税評価を大きく下げることができます。

企業オーナーの事業承継対策について専門の税理士が徹底解説

この章では持株会社方式と合併による事業承継対策をご紹介しましたが、この他にも株式交換や会社分割等の組織再編を活用した事業承継対策のメニューがあります。

この組織再編を活用した事業承継対策は、会社の状況ごとに取るべき対策が異なりますので、専門家である税理士等と相談しながら方針を決めるとよいでしょう。

4-4.上手く活用したい事業承継税制

本記事の最後になりますが、事業承継税制について解説をしていきたいと思います。
事業承継税制を上手く活用することで大幅な自社株承継時の相続税や贈与税コストを軽減することが可能となります。

事業承継税制とは、後継者が非上場会社の株式等を先代経営者から相続又は贈与により取得した場合において、一定の要件を満たすと相続税・贈与税の納税が猶予される特例制度です。

この特例は「生前贈与のケース」と「相続発生後のケース」の2パターンがあります。

・相続税の納税猶予制度
後継者が納付すべき相続税のうち、相続等により取得した非上場株式等(注)に係る課税価額の80%に対応する額が納税猶予されます。
(注)相続前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限る。

・贈与税の納税猶予制度
後継者が納付すべき贈与税のうち、贈与により取得した非上場株式等(注)に係る課税価額の全額に対応する額が納税猶予されます。
(注)贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限る。

このように発行済議決権総数の2/3の部分までの相続税や贈与税が大幅に軽減されます。

そうしますと要件に該当すれば使わない手はないということです。しかしながらこの特例の条文をよく読みますと、「納税猶予」の制度となっています。つまり適用したからといって、相続税や贈与税が免除されるわけではなく、一時的に猶予されるということに注意しなければなりません。

しかしながらも事業を継続している限りにおいては多額の相続税や贈与税の負担を軽減できることに間違いはありませんから、適用要件を満たす企業は検討することが望まれます。

それでは適用要件を確認してみましょう。

・先代経営者の主な要件

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・後継者の主な要件

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画像引用元:神奈川県「中小企業経営承継円滑化法(事業承継)に基づく事業承継税制(非上場株式の贈与税・相続税の納税猶予)に係る認定手続きのご案内

上記要件に加えて、贈与税・相続税の申告期限から5年間は、以下の要件を満たして事業を継続することが必要です。

①雇用の8割以上を5年間平均で維持
②後継者が代表者を継続
③先代経営者が代表者を退任(有給役員として残留可能)〔贈与税の場合〕
④後継者が対象株式を継続して保有
⑤上場会社等、大会社、資産管理会社、又は風俗営業会社のいずれにも該当しないこと 等

次に納税猶予されていた税額が免除される場合についても確認しておきましょう。

  1. 会社が破産又は特別清算した場合(法的清算)【5年経過後のみ】
  2. 納税猶予対象株式の時価が猶予税額を下回る中、事業を継続するため当該株式を譲渡した場合(事業再生のための任意譲渡)【5年経過後のみ】
  3. 次の後継者に猶予対象株式を生前贈与して事業の継続を図る場合【5年経過後のみ】
  4. 後継者(受贈者又は相続人)が死亡した場合(事業承継の完結)
  5. 先代経営者(贈与者)が死亡した場合(相続への切替え)【贈与税のみ】

このように事業が継続していく限りは納税が猶予、いずれは免除されることもある制度となっています。適用対象としてイメージされる会社は、創業が長い同族会社や親族外承継も可能なことから、親族外承継で納税負担少なく事業承継を進めたい時等に適した制度といえるでしょう。

5.まとめ

この記事では様々な角度から事業承継対策を見てきましたが、この記事で紹介した事業承継対策以外にも対策案は数多くあります。一般社団法人、従業員持ち株会社、財団等を活用した事業承継対策についても耳にしたことがある人も多いでしょう。

そして事業承継対策は税金、法律、経営のこと等が複雑に関係した専門分野であることも理解して頂けたかと思います。特に事業承継分野は詳しい税理士も少ないため、顧問税理士が事業承継や相続税に精通していないケースもよくあります。

事業承継対策は早くからスタートすることがとても大切ですので、早い段階から事業承継や相続税に強い税理士に相談するようにしましょう。